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200W局開局5周年

 2023-07-02 作成
2023-07-17 1訂



  • 2018年6月のアマチュア無線局JQ2MPJ 200W局(移動しない局)開設から5周年の節目を迎え、5年間のDXと200W局特有の運用を振り返っているページです。




200W局開設5周年を迎えて

 2018(平成30)年6月の200W局開局から、5周年を迎えました。ここまでの5年間を主に200Wというと ころにスポットを当てて振り返りたいと思います。

 2018年を振り返ると、平昌オリンピックでカーリング女子の「そだねー」や「もぐもぐタイム」が流行した年です。時の首 相は故安部第4次改造内閣。大きな事件は、東海道新幹線車内での殺傷事件がありました。コロナウィルスとは無縁のビフォーコ ロナの時期でした。

 無線的には、サイクル24から25に切り替わる時期で、いわゆるボトム期でした。ボトム期は2020年末まで続きましたの で、自分史ではちょうど2020年12月末に今のQTH(あま市)に転居する前の清須市がQTHだった頃です。

 2018年1月にJT65でDX(短波帯)に目覚めたものの、ボトム期でしたので主に7MHz国内と18MHzでのDXが 中心でした。当時は3アマでDX駆け出しの頃ですので、サイクルボトム期という言葉すら知りませんでした。ボトム期だったか らでしょ う、当時の当局の設備ではハイバンドはほとんど入感なく、ローバンドをやるには50Wでは不足でしたので、やはり国際バンド 10/14MHzに出たいとの思いがすぐに芽生え、4月には2アマを受験し合格、6月に200W局の開設にこぎつけました。 現在はアメリカのアマチュアエクストラクラスのライセンスを取得していますので、1アマ相当として運用しています。

 FT857M+ヤエスのATAS-120A(オートチューニングアンテナ)で短波帯にデビューして、半年足らずで200W の世界に足を踏 み入れたので、完全な経験不足が露呈し、様々な不具合が強敵として発生しました。

 まずはやはりアンテナで苦戦しました。200Wに耐えうるアンテナということでCP5HS(第一電波工業)を買い求めまし たが、短波帯のアンテナの調整など初めてで、アンテナアナライザなども持っていませんでしたので、パワー&SWR メーターで、送信機ごと屋根に上げてエレメントを伸ばすのか縮めるのかの判断すらおぼつかないような状態で、なんとか共振さ せて送信機を部屋に戻すとSWRがまた狂ってて…。今思えばアンテナと送信機の距離やケーブルの長さ、アンテナ周辺の環境 (人体)も当然影響を受けるわけなので、屋根上にセットした送信機で調整して、部屋に戻せば狂うのは当たり前ですが、そんな ことも知らないレベルでした。それでもメーカーに技術相談したりしながら試行錯誤を繰り返し、なんとかアンテナを整えまし た。

 次に直面した問題は回り込みでした。フィルターやフェライトコアといったことにも疎く、当初はフィルターやコアの類は皆無 でした。パワーを上げていくとリグから変な音がしたり、PCには「オーディオに異常」というメッセージ、オーディオデバイス が繋がっているのに取り外した状態になる、しまいには、SWRメーターのMメス端子の一部が溶けてしまったりもしました。強 い反射かミスマッチが原因でしょうか、SWR計に触れた瞬間に高周波やけど(本体が実際に発熱している訳ではないのですが、 触れた部分に熱を感じ、見た目は何ともないのですが、しばらくの間は普通のやけどと同様にヒリヒリします)したりと、もう一 通りはやらかした感じです。

 これらをアマチュアらしく試行錯誤で解決していくわけですが、とにかくインターネットに色々な投稿してくださっている諸 OMの記事は大変参考になりました。今では私も多少は記事を書けるレベルに経験を積んできましたので、なるべく結果は記事に して恩返しのつもりでインターネットに公開するようにしています。もちろん私の環境に当てはまらない(効果がない)というも のもありましたが、「効果がない(該当しない)」という結果が得られますので、また次の策を探し、進んでいけます。本当に 色々やりました。アンテナの時は同軸ケーブルをまるごと入れ替えるなんてのは序の口、バインド線に碍子を入れたり、アンテナ とポールを塩ビパイプで絶縁したりしました。M接栓は何度作り直ししたことでしょう。回り込み対策は、アース棒を埋め込んで 接地してみたり、フェライトコアを各所大量につけたり、各ケーブルの位置や束ね方にも気を使ってなるべく平行にならないよう にクロス配線にしたり、電源ケーブルをツイストペアにしたり、ACラインフィルター、USBのアイソレーションや、筐体の アースやアルミホイル巻き…今思い起こしても本当に色々やりました。自宅の古いパナソニック製インターホンもIを受けてしま い、送信すると「ピンポーン」と鳴るので、これはメーカー純正の対策部品をつけたりと、結局200Wを落ち着いて出せるよう になったのは、開局から半年かかりました。

 200W開局から半年で、「一通りなんとかなった」というだけで、さらにDXを求めてさらに詰めていくと、色々自分の知識 の浅さに参り、諸OMの資料を読み漁るも理解できないこともあります。今でもやはり工学系の資料で理解できないものはありま すが、当時は本当に分からないことしかない状態だったので、少しでも知識をつけようと、平成31年に4海通、令和元年に第二 種電気工事士、令和2年に1陸特と工事担任者(総合種)を取得し、基本的な電気系とアマチュア以外の無線従事者資格を取得し て、多くの無線につながる知識をつけようと200W開局から約3年間は猛勉強の日々でした。

 試行錯誤と勉強の成果もあってか、3年目2020年末の転居による無線設備の大移設では、総復習を兼ねて新居では今までの 知識と経験を存分に発揮して持てる技を出し尽くした設置をし、新居では基本的な設備障害は発生していません。

 しかし、それはあくまで無線設備が正常に作動するようになったというスタートラインに立ったというだけで、2018年当初 からのDXCC入会という目標を達するために、WARCバンドに出たい、珍局ともっと交信したいという希望を叶えるため、新 居に転居してからは、アンテナを改造、深夜の運用、新たな設備を導入、新しいモードに挑戦…と設備を少しずつ補強し、経験を 積み、運用技術も磨いていきました。DXCCニューエンティティと交信したくて200WSSB対応アンテナなのにデジタル 200Wでコールし続けてアンテナのコイルを焼いてしまって…というのは200W局ではありがちなことです。後述しますが 200WSSB対応のアンテナでデジタル200Wは平均電力率の問題からオーバーパワーでした。こんな故障でも、原因を探る ために色々な記事を読み、壊れた部品はとりあえず分解してみるなど探求心を持って研究し、今ではコイルの巻きなおし+耐熱性 向上の修理もできるようになりましたし、何よりコイルを焼かない運用や、いつでも200Wを使うのではなく、コンディション に応じて、無茶はせず設備を上手に使う運用にシフトしていくことができました。

 コンディションというのは本当に大切で、2018年のサイクルボトム期からの短波帯デビューでしたので、DXCCは正直3 年で80ほどしか達成できず、それでほぼ頭打ちでしたので、少しあきらめかけていた時期もあり、国内のJCCを稼いでいまし た。旧居の清須市では平屋に屋根上げアンテナで、南北両方向を3,4階建ての建物に挟まれるという最悪なロケーションの影響 もかなりあったでしょう。当時はWARCバンドは常設アンテナがなかったのでアクティビティが低く、21,28MHzのハイ バンドなんてほとんど入感もせず、14MHz以外は使えないバンドだなという印象しかありませんでした。

 そんな無線的には不完全燃焼な状態でしたが、2020年末にQTHをあま市に移転したことにより、自宅が2階建てになりま したのでアンテナも2階バルコニーに設置できるようになり、周辺は自宅と同じ2階建ての建物しかありませんのでロケーション も格段に良くなりました。バルコニー設置によりアンテナのメンテナンスや実験のための上げ下ろしもかなり楽になりました。こ の頃からサイクル25に入り始めてコンディションが上昇し、転居から1年でDXCC100を達成、さらに1年後の今年は、 DXCC150と14,18,28MHzのDXCC100達成、WASも45州とかなり充実した運用となりました。何より 2023年春の28MHzの大オープンでは、40少々しかなかった28MHzのDXCCエンティティが5か月で一気に100 に到達しました。

 28MHzは、本当にすごいバンドでオープンしていないときは確かに使えません(ほとんど使えない)が、ひとたびオープン するとたった10WでEU方面も普通に交信できます。インドネシアあたりまでなら5Wでも大丈夫です。バンド内に出る場所 (空き)がないほどたくさんの局が入感します。しかし、ダメなときは、200Wかけても応答はありませんし、そもそも入感し ないことも普通です。ハイバンドはパワーよりコンディションが大切です。ローバンド(7MHzより下)は、電離層の反射効率 が悪くなってくるので、パワー合戦となりやすく、なるべく短縮しない効率の良い(大きな)アンテナが重要になってきます。し かし、当局はアンテナがバーチカルと短縮ダイポールだけなのでどうしても他局が呼んでるDX局が入感しないということが割と 普通に発生しているので、そんな時は無理せずコンディションの上昇を待つということも大切です。冬にdBが悪くて全然交信で きなかった局と、春先にかなり強いdBで余裕で交信できたなんてことは割と普通にあります。

 DXCCも150になってくると、全部で300エンティティほどなので概ね折り返しです。しかしここからが地道な努力が必 要です。概ね交信しやすいところは交信できたということでもあるので、この先は交信が難しい地域や周波数を狙って更に設備の 増強や運用技術を磨いていかなければなりません。CQWAZというアワードがあるのですが、こちらは世界中をくまなく50の ゾーンに区分したもので、「世界中くまなく」交信できないと獲得できないアワードですので、どこでも(近場でも)いいから 100の地域(エンティティ)と交信すれば良いというDXCC100よりは難易度が高いです。あと4ゾーンなのですが残って いるのは「アフリカ2ゾーン、北大西洋、北米北東部」です。日本から見て地理的に遠く、更にアマチュア局の運用そのものが極 端に少ない地域で、先述の「交信が難しい地域」です。これらの地域との交信はまずコンディションに恵まれること、そのタイミ ングでそこから運用してくれている仲間がいるという偶然が重ならなければ交信はできません。つまり、運という要素がかなり強 く必要になってきますが、自分の設備がそれらを捉えられる状態でないと話になりませんので、やはり自分の設備、技術、経験を 磨いていくということも非常に大切になります。

 こんな私も2023年1月にアメリカ合衆国のアマチュアエクストラライセンスに合格し、法的には日本でもkWを扱うことが できる免許を得ることができました。お金と良い場所があればkWもやろうと思えばやれるようになりましたが、今のところ宝く じが当たった時にやりたい夢ですね。

 まだ本格的に短波帯の運用を初めてまだ5年なので、あまり積極的に運用できていない周波数帯もあります。ローバンドでは 1.9/3.5MHz帯、ハイバンドでは50MHz帯です。先述したとおり、ローバンドである1.9/3.5MHz帯は大き な効率のよいアンテナとパワー合戦になるので、中々運用しずらいのですが、今年の春にはメーカー製アンテナを3.5MHz帯 に改造する実験に着手して概ね完成し、短縮アンテナで効率はよくはありませんが、常設で最大200Wまでの運用ができそうな 所まで来ていますので、今冬のローバンドシーズンは大変楽しみです。

ハイバンドの50MHz帯は、Es(Eスポ)頼りになるので、春〜夏前がメインです。1エレでもいいので来年は小さめの八木 を設置したり、移動運用してEsシーズンを楽しみたいとも思っています。これらの周波数帯ではまだ超初級のアワードである AJD(日本の10のコールエリアとの交信)すら達成していないところもあるので、AJD、WAJA(日本の全都道府県)、 WAC(世界5大陸)…とステップアップして長く楽しめる趣味としてこれからも続けていけたらと思っています。

   2023年7月2日 JQ2MPJ






100Wと200Wの違い

 ここでは100Wと200Wの違いを自分なりに経験と実体験をもとに考察してみようと思います。なお、FT8モードでのパ ワー議論(100Wや200Wを使うことの是非)についてはここでは特に述べません。私のパワーの選定は、国内は30Wを基 本として10-50W、DXは100Wを基本として50-200Wです。

 また、当方の所有する設備中心に述べており、異なる設備では違う使用法(結 果)となることもあります。このページをご覧になられて何かをご自分の設備でお試しになる場合は、ぐれぐれも取扱説明書 などを熟読頂き、設備等の状態をよく監視した上で、無理のないようにお試しください。実施した結果、設備等に故障等が生 じた場合についての一切責任等は負えません。

 スタンダードなモデルの適合証明(技適)を受けているリグは、概ね100Wが上限です。これを2倍の200WにQROしよ うとすると、高級機かリニアアンプを付加するというどちらかとなります。100Wから200WにQROすると、3dBの差が あります。

 100Wモデルが概ね10-20万円で手に入るのに対して、200W高級機となると50-100万円ほどしますので、かな りの価格差があるので、ネットでよく100Wと200Wの差はどの程度価値があるのか?(かなりの投資して200Wに する価値 は?)というような記事を見かけますので、私なりの私感を5年間を振り返りつつ記しておきたいと思い ます。

 当局の場合は3アマからのアップグレードなので、既に所有していたFT857M(50W機)に、リニアアンプ RMITALYのHLA305(200W)が2018年当時は約9万円と40Aの電源が2万円ほどで手に入りましたので、こ れをつけるのが一番最安でした。(注:HLA305の200Wバージョンは半導体不足により生産休止になって以降、今のとこ ろ生産再開されておらず入手できません)

 当局のアンテナは開局当時からのCP5HSと、2年ほど前からHFV5を改造してWARCバンド用にしたもの2本を常設し ています。パワーよりアンテナということは重々承知ですが、拙宅は一軒家ではあるものの
、そこまで広い訳ではありませんので、幅を取るワイヤーアンテナや八 木アンテナはハードルが高いですので、できる限りコンパクトで垂直(高さ)方向を活用する形になるので、短縮のバーチカ ルかダイポールが限界となります。

 アンテナがごく一般的な「とりあえずまずまずの効率で波を出せるアンテナ」なので、
普段のDXは50W ではやはり苦しく、アンテナの悪さをパワーでカバーするためにリニアは常用です。エキサイター(リグ)から8Wでリニアを通 して100Wで出ています。エキサイターの電力は15Wまで行けますのでエキサイターの電力を増加すれば、最終的には 200Wまで出せます。なぜ200W出せるのに常用は100W何ですか?という質問が来そうです。まず法的に言えば電波法第 54条の「
通信を行うため必要最小のものであること」ですが、これを聞きた い訳ではないと思いますので、私なりの感覚で少し書いておきます。

 まず、200Wがあってよかった(力を発揮した)と思ったのは、「交信が成立するか微妙な感度の時に、dBを上げら れること」で す。

 近々 では、キューバとのQSOで、相手のSNは-19dBとギリギリ、100Wで15回ほどコールしてもリターンがありませんで した。そこで、200WにQROすると、なんと2コールでピックアップしてもらえました。しかしこの時に貰ったレポートは -23dB、200W出しているのにFT8のほぼ下限のSNでした。FT8で当局がいままでデコードした最低のdBは -25dB(JTDXのヒントデコードあり)ですが、100Wなら推定-26dBですので、ピックアップはまずありませんで した。

 別のQSOでは、アフリカ大陸コンゴとのQSOで、相手は-17〜-20dB、ペ ディション局でF/Hだったので、拾ってもらえるまで長く呼ぶ必要がありますので100Wで1時間近くコールしましたがリターンはなし。ペディションも終 盤で、QRV開始当初は混んでいましたが、30分後には他局へのリ ターンの具合を見ると混雑が落ち着いてきたようなので、 200WにQROして10回ほどコールしましたがリターンはなしでQRT。翌日にほぼ同じ時刻とバンドで入感がありましたの で再トライは、まず100Wで10分ほどコールしましたがリターンなし。スロットも1〜2で、リターンもそう混雑 もしていない。そこで200WにQROしたところ、3コールでリターンがありましたが-22dBとまたギリギリでした。こちらも100Wだと推定 -25dBなので、周波数が比較的クリア(極端に強い局がいない)であちらもJTDXなら取ってもらえるかもという最低限の dBで、F/Hペディション局相手でしたので多分ピックアップはなかったでしょう。

 こんな感じで、200WにQROしたら、相手に入感させられるdBに上げることができ、ギリギリながらもQSOが成立した という例は数多くあります。

 +3dBを粗末にする と+3dBに泣きます。1円でも足りないと買えないのと同じ理屈で、相手に入感しなければどうしようもありませんので、200W の貫禄というのはここ ぞという時に最後に出せるジョーカーといったところでしょうか。

 ただ、200W程度では万能なジョーカーではなく、200WにQROしても、結局リターンなしということも多々ありま すの で過度な期待は禁物です。良いアンテナを使っている局やkWクラスの局を相手に勝ち目はありませんし、200Wに短縮バーチ カルやダイポールではパイルをぶち抜くということもまずできません。パイルはできるだけトップガンが一回りしてからでしょ う。世界では2kWまで出せる国もありますので…。また、他局が必死にコールしていても自局に入感しない局はどうしようもあ りません。

 だったら常用で200Wでコールすればいいじゃないかという話になりますが、実は200Wを常用で出すというのは設 備的に意外と難しいです

 まずはアンテナの耐電力です。拙宅は一応一軒家ですが、そこまで広い訳ではありませんので、横幅を取るワイ ヤーアンテナや八木アン テナの設置はハードルが高いです。ワイヤーどれだけがんばっても20mクラスまでしか展開は不可能ですし、八木も全長が約7m以内でないと回転時に隣地に 越境してしまうという、長方形状の土地です。なので、できる限り垂直(高さ)方向を活用する形になるので、短縮バーチカル (GP)かV型短縮ダイポールになります。
 メジャーな国内メーカー製の短縮GPやVダイポールはだいたい耐入力が120〜250W SSB程度であることが多く、一見すると200W対応に見えますが、実は平均電力率の問題があります。SSB は電力率は0.16、CWは0.5です。SSB(肉声)は、声の強弱により送信出力が変化し、しゃべっていない時間はPTT を押していても電波は出ませんので、意外と200WピークでチューンしていてもMAXで出力される時間はそう長くはありませ ん。CWも信号がない時間がありますので、MAXの出力は短時間です。

 しかし、FT8を含むデジタルモード は電力率は1.0で送信中は常に100%の電力を放射しますので、単純にSSBの6倍 の電力をアンテナに送っていることになり、かなりの負担をかけます。FT8なら13秒間100%フルパワー で送信します。そのため、メーカー(第一電波工業)では、SSB(200W)に対して、CWならSSBの3分の 1(66W)、デジタルモードはSSBの5分の1(40W)の入力で運用するよう注意書きをしています。そうしますと耐 入力120〜250WSSBは、24〜50Wデジタルとなります。これがアンテナにやさしい運用となりますが、どうで しょう、国内ならともかくDXではかなり厳しいでしょう。

 では、実際にこの値をオーバーしたら即壊れるのかというと、そういう訳でもありません。私の感覚では、SSBの耐電 力に対して2分の1であればよほど呼び続けなどしない限りはFT8のサイクル運用でアンテナを故障させることはないと 感じています。

 この2分の1というのが、当局のアンテナはCP5HS(200WSSB)なので、デジタル100W運用で常用というからく りです。

 短縮アンテナのオーバーパワーの先に待っている結果は、概ねコイルの焼損による短絡です。材料と少しの技術があればコイル を巻きなおせば復活できる場合が多いですし、国内メーカーのアンテナはパーツだけの取り寄せができますので、仮に焼損させて もそこまで金額的には大事にはなりませんが、アンテナの上げ下ろしや再調整は非常に面倒ですし、壊れている期間中はQRVが できません。

 次の問題はリニアやリグです。リニアやリグもアンテナと同じく電力率の問題(ファイナルの余裕や放熱の問題)が付き まといますので、一口に200Wリニアといった場合、SSB(CWまでを含むこともある)を基準に200Wで設 計されており、アンテナと同様に電力率の問題でデジタルモードでは、それ以下に制限するように注意書きがされていることがあ ります。例えば当局のHLA305の場合、デジタルモード運用時は定格250Wの25%で約60Wでの運用が保証範囲で す。(注:HLA305は元々は海外の250WタイプをJAの2アマでも操作できるようにメーカーで200Wに制限して出荷 しているだけですので、能力としては250Wのハードウェアとなります。)

 そうしますと、当局の200Wリニアは、デジタルモードでは60Wでの運用が推奨されるということです。普通の200Wリ ニアなら25%は50Wです。意外と少ないで しょう。リニアは故障させるとファイナルをぶっ飛ばして高額修理(買い替え)になりますので、リニア本体の温度や反射電力な どを考慮しつつ、無理をさせないように十分気をつけなければなりませんが、60Wを超えたら壊れるのかというと、これも HLA305の場合ですが、100W常用で5年使っていますが、何不自由なく動いていますので、2分の1までは常用で も問題なさそうです。

 なので、仮にアンテナをデジタル200W(SSBで1kWクラスのアンテナ)に対応したとしても、200Wをデジタルで常 用で出そうとすると、最低でも500Wクラスで設計されたリニアで200Wの出力という形が理想的ですが、そのようなリニア はありません。1kWや500Wのリニアを200Wに減力する改造となると、かなり面倒でしょうし、いくら200W運用とす ると宣誓して も、500Wや1kWが容易に出る状態であれば落成検査の対象となりますので2アマで検査なしでの自主的な減力運用も現実的ではないでしょう。やるなら検 査を受けて1kWのリニアを200Wで自主的に運用するというのが一番現実的ですが、kWを手にすればkWを出したくなるで しょう。アンテナの対応はお金と土地次第ですが、リニア(リグ)の対応はお金や土地の他、周辺環境(電波防護)や従事者資格 の問題も絡み合ってきます。

 ちなみに、リニアを用いない(リグ単体で100W)だと、状況は更に深刻です。リニアはその特性上、設計の 段階で、放熱などもそれなりに考えて作られていますが、その分ファンなどの消費電力も多く、フィンや部品間の空間を確保する ためにサイズも大きいというデメリットもあります。しかし、リグ単体の場合、ある程度コンパクトに納めることや消費電力など も考慮して設計され、100Wモデルはほとんどがそのモデルの設計の最大定格値であることが多いので、100Wモデルであっ てもデジタルでは25%ルールを適用しないと本体がすぐに過熱し高温保護が働いて強制的に減力されてしまいま すので、フルパワーでFT8というのは実は長時間はできません。高級モデルを除いて基本的に100Wで設計し、100Wその ままや50Wや10Wにメーカーのファームウェアで減力して出荷するという生産方式が採られているため、100Wモデルでも デジタルなら安全圏は25%の30W、少し無理をしても2分の1の50Wがやっとです。

 では、やはり200W対応は無意味なのかというと、そうでもなくリニア使いならではの余裕のある運用ができるという メリットがあります。当局のFT857は3アマの時に買ったものですので、定格50Wのものです。FT857の 設計は100Wですが、2分の1運用となる50WでもFT8で絶え間なく交信していると30分ほどで高温保護がかかってしま うことがあります。設計の2分の1ですが、それでも高温保護がかかることがあるのです。30Wなら経験上絶え間ない交信でも 保護はかかりません。先の25%ルールにもほぼ合致しますので、100W設計のリグでおおよそ25%のデジタル30W運用と いうのは一番安全で経験則からも理にはかなっているのです。

 ここで例えば50Wであっても、FT857に50W出力させるのではなく、あえてリニアを登場させると、エキサイターとな るFT857は5Wの出力でリニアは50W以上出ますのでエキサイター(リグ)の高温保護はまずかかりません。また、リニア も定格250Wのものを50Wでの運用なら先の25%ルールにも適合していますので、50Wを常用で高温保護に全くひっかか ることなく運用することができるのです。

 ※補足ですが、定格100Wのファイナルに出力制限をかけるということは、 ファイナルデバイスでのコレクタ損失を増やして最終出力を下げるということであり、コレクタの損失はそのまま熱に変換さ れますので理屈としてはファイナルのコレクタ由来の発熱は増えます。定格の40%に制限したときがコレクタ由来の発熱が 最大になります。コレクタの発熱が一番少ないのは定格か定格の10%以下ですが、実際のところは一番効率のよい定格でも おおよそ28Wのコレクタ損失(発熱)が元々あり、これが出力を絞っていくと徐々に増え、40Wにまで絞るとファイナル の効率が 50%となり、コレクタ損失が最大の40Wになるということです。実際コレクタにかかる負担の差は最大で12Wです。これらを考慮しても、出力を 絞らないことによる、コレクタ損失以外の回路の発熱、大きな出力に対する反射波による発熱、アンテナへの影響の方が大き いと考えられ、出力を絞るというのはトータル的にはやはり安全な運用ということになるようです。

 ですが、やはりリニアを買うからには最大限にその力を活用したいものです。ここまでの理屈を頭に入れたうえで、
5年で身につけてきた、壊さないぎりぎりの運用 ノウハウを最後に書いて終わりたいと思います。

 リグ、リニア、アンテナは常用では設計定格の2分の1(当局では100W)を最大として運用する。当局の構 成なら100Wではバンドによりますが、最大で1時間の呼び続けた実績があります。それでもアンテナにじわじわとオーバーな 負荷をかけていますので、過度な呼び続けや連続運用はせず、当局ではSWR(後述)とリニア温度の監視、FT8サイクルで 60分呼び続けたら10〜20分休むルールを作っています。

 正直、200Wでの運用もできないことはありませんし、この運用日記でも200W使用を明言していますので出すときは思い 切って出します。当局の構成だと200WでのFT8交信は連続20分が限界です。当局の場合、20分を超える と、アンテナのコイルが焼損しました(何度もやらかしています)。リニアは200WでもFT8サイクル20分程度なら涼しい 顔をしています。

 200W運用でコイルが過熱してくるとSWRが変化してきます。例えばSWR1.5で運用を開始して、コイルが発熱すると 徐々に変化します。上がるか下がるかは共振周波数次第なのですが、SWRが運用開始時(冷えてるとき)より 0.5〜0.7以上変化したらコイルが冷めるまで一度待った方が良いで す。

 なので、ペディションF/Hの呼び続けなどでは100Wで長く呼べるように、単発のDX局なら100Wで呼んでみて ダメなら200Wでササっと取れたらとる、深追いはしないというのがベターな運用になっています。

 同軸ケーブルそのものはHF帯で一般的に用いられている5D-2V以上を使用していれば、200W程度では何の変化も起き ません。ただし、コネクタなどはしっかり接合(締め込み)されていることを確認してください。締め込みがゆるいと反射が起 き、私の場合はそこで発熱しM栓のプラ部を溶かしてしまいました。

 高SWRでの200W運用は、スプリアスやRFやけどの原因となります。チューナーのチューニングなどはきちんと既定 の電力(5-10W程度が多い)でしっかり追い込みましょう。RFやけどは、金属部以外(樹脂部)でも起きますので鉄部に触 らなければ平気ということはありません。また、近接するアンテナやその解放されている端子がある場合、送信中には触れないよ うに注意しないと、関係のないアンテナであっても電気が発生していることがあります。

 そのほか、200Wの運用は100Wより更に回り込みなども発生しやすくなりますので、フィルター類(ローパスフィル ター、コモンモードフィルター、ACラインフィルター、ノイズカットトランスなど)もしっかり設置しましょう。

(おわり)


deJQ2MPJ 湯浅 徹

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